前著の「待ち暮らし」同様に、ハ・ジンの人物描写は情け容赦がない。
文革時代には反革分子とされた教養人であり、清廉の人と尊敬を集める大学教授が脳卒中で倒れ、彼を恩師と慕う主人公がその看病にあたるところから物語は始まるのだが、病床にある教授の狂人とも思える描写が兎に角凄まじい。
文革の歌を声高らかに歌い毛沢東を讃え上げ、自らの不遇を嘆き金銭欲と物欲をあからさまにさらけ出したかと思えば、挙句、不倫の情事を淫らに事細かに語ってみせたりと、凡そ変わり果てたその姿が、病気で常軌を逸した故なのか、あるいは隠され続けてきた本性がさらけ出たものなのか、主人公にも読者にも判断がつかない。
本著はミステリー的要素も含まれているとは言われているが、やはり全編通して伝えられてくるのは「人間の弱さ、悲しさ、愚かさ」と、そしてそれでも生き抜く「したたかさ」であると思う。
人の業というものは、万国共通なのである。
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